1. キャッシュは何?
キャッシュ(Cache)とは、よく使われるデータを一時的に保存しておき、次に同じデータが必要になったときに、すぐに取り出して表示するための仕組みです。Drupalでは、ウェブページ全体、ブロック、表示結果(レンダリング結果)、APIの応答など、さまざまな種類のデータをキャッシュすることができます。
つまり、毎回コンテンツを一から作り直すのではなく、あらかじめ作っておいたデータを再利用することで、ウェブサイトの表示を速くし、全体のパフォーマンスを大きく向上させることができるのです。

2. なぜキャッシュが重要?
1) ユーザー体験の向上
現代のウェブ利用者は、素早い応答を当然のように期待しています。一般的に、ウェブページの読み込みに3秒以上かかると、約32%のユーザーが離脱すると言われています。キャッシュを使用し、ページの表示速度が速くなることで、滞在時間やクリック数が増加し、結果的にリード獲得の向上につながります。
2) 検索エンジン最適化(SEO)の向上
Googleはページの表示速度を検索結果の順位を決定する重要な要素の一つとしています。(ページロードを3秒以内に完了することを勧めています。)特にモバイル環境においては、表示が遅いページは低く評価される傾向があります。キャッシュを活用することで、TTFB(Time To First Byte:最初のバイトが届くまでの時間)を短縮し、SEOにおける競争力を高めることができます。
3) サーバーリソースの節約
DrupalはPHPをベースとしたCMSであるため、リクエストがあるたびにPHPがデータを取得し、TwigテンプレートでHTMLを生成する処理が行われます。これが繰り返されると、サーバーに大きな負荷がかかります。キャッシュを利用することで、このようなレンダリング処理を省略し、すでに保存された結果を直接返すことができるため、リソースを効率よく使用することが可能になります。
4) トラフィック急増への対応力の向上
マーケティングキャンペーンやイベント、プレスリリースの公開などにより、短期間に多数のユーザーが同時にアクセスする状況が発生することがあります。キャッシュを適切に活用することで、このようなトラフィックの急増にも安定して対応することが可能です。特に、CDNやリバースプロキシと連携したキャッシュレイヤーを活用することで、数十万単位のアクセスにも耐えうる基盤を構築することができます。
3. どんなキャッシュがある?
1) Drupal内部のキャッシュ
(1) Internal Page Cache(インターナルページキャッシュ)
Drupalをインストールすると初期設定で有効になるキャッシュ機能です。主に匿名ユーザー(ログインしていないユーザー)向けに、ページ全体の内容を保存します。初めてアクセスされたページはデータベースに保存され、次回以降はキャッシュされた内容が素早く表示されます。
ただし、セッションごとの動的なコンテンツや、パーソナライズされた情報が表示される場合にはこの機能は適していません。その場合は、Dynamic Page CacheやAJAXを使った部分的な更新方法を利用するのが推奨されます。
(2) Dynamic Page Cache(ダイナミックページキャッシュ)
このキャッシュは、匿名ユーザーだけでなく、ログインユーザーにも対応しています。ページ全体ではなく、部分ごとにキャッシュを保存するため、個別にカスタマイズされたコンテンツがあっても一部キャッシュを活用でき、パフォーマンスと柔軟性の両方を確保できます。
(3) Render Cache(レンダーキャッシュ)
Drupal内部の要素(ブロック、メニュー、ビューなど)のレンダリング結果を保存します。同じ要素が複数のページで使われている場合でも、毎回新たに表示を生成するのではなく、キャッシュされた結果を再利用することで表示速度が大幅に向上します。Drupalではこの機能が自動で有効になっており、全体的なパフォーマンス向上にとって重要な役割を果たします。
(4) ブロックキャッシュ
Drupalのページは複数のブロックで構成されています。各ブロックにキャッシュを設定することで、ページ全体を毎回レンダリングしなくても済むようになります。静的なブロックは長時間キャッシュしておくことも可能です。キャッシュの有効時間はブロックごとに設定でき、動的コンテンツと静的コンテンツが混在するページで特に効果的です。
(5) ビューキャッシュ
Viewsモジュールを使用する場合、作成された表示結果(ビュー)をキャッシュして、繰り返し行われるデータベースクエリを減らすことができます。特に大量のコンテンツを繰り返し表示するリストや検索結果などで、高いパフォーマンスを発揮します。
(6) エンティティキャッシュ
ノード、ユーザー、 タクソノミーなどのエンティティをレンダリングした結果をキャッシュします。これにより、同じデータを何度も読み込む必要がなくなり、全体の応答速度が向上します。
2) 外部キャッシュ
(1) ブラウザおよびプロキシキャッシュ
ユーザーのブラウザや、ネットワーク上のプロキシサーバーは、Cache-Control
ヘッダーに従ってHTML・CSS・JavaScriptなどのリソースを一時的に保存します。これにより、次回同じリソースを読み込む際、ローカルから素早く表示できるようになります。ユーザーの体感速度の向上に効果的です。
(2) CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)
Cloudflare、Akamai、FastlyなどのCDNサービスを利用することで、コンテンツをユーザーの近くにあるサーバーにキャッシュし、世界中どこからでも高速なアクセスを可能にします。Drupalはこれらの外部キャッシュシステムとの連携も簡単に行えます。
4. Drupalのキャッシュ性能を向上させるため
サイトにより、キャッシュ設定は変わりますが、以下の設定が勧められています。
・頻繁に変更されないブロックにはキャッシュを有効にし、レンダリングの負荷を減らしましょう。
・Views(ビュー)では、結果が変更された時だけキャッシュを無効化するよう設定しましょう。
・ページやエンティティキャッシュの有効期間を適切に設定し、更新頻度とサーバー負荷のバランスを取りましょう。
・CDNやブラウザキャッシュを併用することで、サーバーの負担を減らし、ユーザーに対してより速いレスポンスを提供しましょう。
まとめ
Drupalは単なるCMSではなく、高性能なエンタープライズ向けWebプラットフォームとして広く活用されています。多様なキャッシュ戦略を通じて、複雑な機能と構造を持ちながらも、常に優れたパフォーマンスを維持することができます。
Internal Page Cache、Dynamic Page Cache、Render Cacheなど、Drupal特有のキャッシュ機能に加えて、CDNやプロキシキャッシュとの連携を活用することで、大量のトラフィックにも安定して対応できます。
キャッシュは単なる表示速度向上の手段にとどまらず、ユーザー満足度の向上、SEO(検索エンジン最適化)、ビジネス成果に直結するため、キャッシュを適材適所で活用しましょう。